サービス物価動向を占う人手不足の宿泊業、アルバイト・パートの募集賃金と求人数は正社員を上回るペースで上昇。2023年以降は宿泊料との連動も強まる
~賃金動向指数サービス「HRog賃金Now」で見る宿泊業の賃金・求人動向~
次世代金融インフラの提供を通して組込型金融を実現するFinatextグループの株式会社ナウキャスト(本社:東京都千代田区、代表取締役CEO:辻中 仁士、以下「ナウキャスト」)と、分析用求人ビッグデータを提供する株式会社フロッグ(本社:東京都千代田区、代表取締役・メディア統括:菊池 健生、以下「フロッグ」)は、賃金動向指数サービス「HRog賃金Now(読み:フロッグ賃金ナウ)」にて今般新しく提供を開始したアルバイト・パートの募集賃金指数と求人数指数を用い、宿泊業のアルバイト・パート労働者の募集賃金・求人動向を分析しました。
【分析サマリー】
- 宿泊関連職種の募集賃金指数と求人数指数は、2021年11月以降、アルバイト・パートが正社員を大きく上回るペースで上昇を続けている。
- 宿泊関連職種における募集賃金指数と求人数指数の相関係数は、アルバイト・パートの方が正社員よりも大きい。アルバイト・パートは正社員と比較して人手不足が賃金に反映されやすいと考えられる。
- 総務省の宿泊料CPIと宿泊関連業種のアルバイト・パート募集賃金指数の関係性を見ると、2023年1月以降、宿泊料CPIと募集賃金指数の連動が強まっており、宿泊業において賃上げの価格転嫁が進んでいる可能性が示唆される。
- 宿泊関連職種のアルバイト・パートの求人数指数の前年比成長率は2022年10月頃をピークに減少を続けており、募集賃金指数も求人数指数に遅れるかたちで減少傾向にある。宿泊業においては、人手不足に伴う求人の勢いが緩和して募集賃金の伸びが落ち着き始めていると考えられる。
分析背景
物価と賃金の安定的な上昇が実現できるかが日本経済の焦点となっていますが、モノの物価上昇率が鈍化する中でサービス物価に注目が集まっています。特に宿泊業の価格上昇は激しく、コロナ後の国内およびインバウンド需要の増加と人手不足で賃金が上昇し、増えた人件費が価格に転嫁されることで宿泊料が上昇している側面があると考えられます。宿泊業はサービス業の中でもアルバイト・パート労働者の比率が高く、その賃金・求人動向はサービス物価の今後を見通す上で重要な指標の1つであることから、今般「HRog賃金Now」にて新しく提供を開始したアルバイト・パートの募集賃金指数と求人数指数を用いて分析を行いました。
分析詳細
「HRog賃金Now」の職種別指数のうち、宿泊業の就業者が多く含まれる「ホテル/旅館/ブライダル」(以下「宿泊関連職種」)の正社員、アルバイト・パートの各指数について、2017年2月13日週を100とし、2017年2月20日週から2024年2月12日週までの推移をグラフで示しました。
1. 宿泊関連職種の募集賃金指数と求人数指数は、2021年11月以降、アルバイト・パートが正社員を大きく上回るペースで上昇を続けている。
宿泊関連職種の募集賃金指数は、正社員、アルバイト・パートともに上昇を続けていますが、2021年11月以降、アルバイト・パートが正社員を大きく上回るペースで上昇しています(図1)。求人数指数は、正社員、アルバイト・パートともに2020年の4月に大きく落ち込みました。その後、正社員は2020年7月以降漸進的な回復を続けている一方、アルバイト・パートは募集賃金指数と同じく2021年11月以降大幅に上昇し、2024年2月現在、2017年2月の水準値の2倍になっています(図2)。
2.宿泊関連職種における募集賃金指数と求人数指数の相関係数は、アルバイト・パートの方が正社員よりも大きい。アルバイト・パートは正社員と比較して人手不足が賃金に反映されやすいと考えられる。
宿泊関連職種における募集賃金指数と求人数指数の相関係数を見ると、アルバイト・パートは0.69、正社員は0.49でした。相関関係は必ずしも因果関係を示すものではありませんが、日本銀行の展望レポート(※)でも指摘されているように、雇用が流動的なアルバイト・パートは、正社員と比較して人手不足が賃金に反映されやすいと考えられます。
※日本銀行「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」(2023年1月)https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/box/2301box3a.pdf
3.総務省の宿泊料CPIと宿泊関連職種のアルバイト・パート募集賃金指数の関係性を見ると、2023年1月以降、宿泊料CPIと募集賃金指数の連動が強まっており、宿泊業において賃上げの価格転嫁が進んでいる可能性が示唆される。
総務省の宿泊料CPIおよび宿泊関連職種のアルバイト・パートの募集賃金指数を各軸にとってプロットしたものが図4です。消費税増税や全国旅行支援などの政府施策の影響を受けていたと考えられる期間は除外し、2017年2月から2019年9月をオレンジ、2021年1月から2022年9月までを灰色、2023年1月以降を青で示し、時系列を示すために連続する月を線でつないでいます。2022年9月まではCPIの上昇は比較的緩やかでしたが、2023年1月以降、募集賃金の上昇と同時にCPIも上昇しています。2023年に入ってから宿泊業において賃上げの価格転嫁が進んでいる可能性が示唆されます。
4.宿泊関連職種のアルバイト・パートの求人数指数の前年比成長率は2022年10月頃をピークに減少を続けており、募集賃金指数も求人数指数に遅れるかたちで減少傾向にある。宿泊業においては、人手不足に伴う求人の勢いが緩和して募集賃金の伸びが落ち着き始めていると考えられる。
宿泊関連職種のアルバイト・パートの募集賃金指数および求人数指数が大きく上昇し始めた2021年後半以降の各指数の前年比を示したものが図5です。求人数指数の前年比成長率は2022年10月頃をピークに減少し、2024年2月12日週には前年を下回りました。募集賃金指数も求人数指数に遅れるかたちで2023年12月頃から減少傾向にあります。宿泊業においては、人手不足に伴う求人の勢いが緩和して募集賃金の伸びが落ち着き始めていると考えられます。
ナウキャストのアナリストによる詳しいレポートを以下のページで公開しています。併せてご覧ください。
「HRog賃金Now」で見る宿泊業の賃金・求人動向および賃金上昇と宿泊料の関係について